
「麻婆豆腐」と一口に言ってもさまざまなタイプが存在します。
その中でも疑問を持たれやすいのが、「陳麻婆豆腐」と「麻婆豆腐」の違いです。
「陳麻婆豆腐って何が違うの?」
「四川料理店の陳麻婆豆腐は偽物なの?」
こうした疑問を持ちながらも、曖昧な理解のまま食べている人も多いのではないでしょうか。
陳建民やその先祖が麻婆豆腐を作った、と誤解している人も中にはいます。
結論を言うと、「陳麻婆豆腐」と「麻婆豆腐」の違いは、「中国四川省成都の陳麻婆豆腐店の麻婆豆腐か」「そうでない麻婆豆腐か」どうかです。
また日本固有の慣習として、花椒の辛さを出した「四川風」の麻婆豆腐は「陳麻婆豆腐」と名付けられる傾向にあり、そうでない日本風の麻婆豆腐は「麻婆豆腐」と名付けられる傾向にあります。
また、陳麻婆豆腐は四川飯店の「陳健民」が作ったものでは無く、四川飯店の「陳麻婆豆腐」は名前を使っているだけで、本物ではありません。
この記事では、麻婆豆腐の起源から陳麻婆豆腐の成り立ち、四川飯店との関係、味や材料の違いまでを整理し、本場四川の視点から違いを分かりやすく解説します。
麻婆豆腐とは?四川飯店についても解説
まずは麻婆豆腐と、陳麻婆豆腐、両方について解説します。
麻婆豆腐(マーボードウフ)とは?
麻婆豆腐は、中国四川省・成都で生まれた料理です。
1862年あたりに陳興盛飯舗(現在の陳麻婆豆腐店)を1人で営む陳劉氏という女性が、労働者のためにこの料理を作りました。(陳と言う名前がついていますが、陳健民とはかかわりはありません)。
名前の「麻」は顔にあばた(麻子)がある人を意味し、「婆」は女性を指すとされ、「あばたのあるお婆さんが作った豆腐料理」が名前の由来です。
「麻(痺れ)辣(辛さ)豆腐」とも呼ばれますが、名前の由来は全く違う所から来ています。
四川はもちろん、現代では日本でも数多くの中華店がこのメニューを扱っています。
豆腐を、唐辛子と油で調理するレシピが日中の共通点です。
四川飯店とは陳建民氏が作った中華料理店
四川飯店は、日本における四川料理の普及に大きく貢献した中華料理店です。
創業者・陳建民氏は、日本人の味覚に合わせて四川料理を再構築し、麻婆豆腐を全国区の料理へと広めました。
陳麻婆豆腐(チンマーボードウフ)とは
陳麻婆豆腐とは、中国や本来の意味だと四川省成都で誕生し陳麻婆豆腐店で作られている「元祖麻婆豆腐」そのものを指します。
陳麻婆豆腐は19世紀清代に創業した「陳興盛飯舗」で生まれ、現代まで発展してきました。
「陳」は麻婆豆腐を作った陳劉氏の陳を差し、中国では一般的な名前です。
陳建民の「陳」とはまた別であり、陳建民は発祥者ではありません。よって日本で開発された料理と言うのは誤りです。
- 本場成都の陳麻婆豆腐の特徴は、
- 牛肉を使用
- 豆板醤を主軸にした味設計
- 花椒による明確な「麻(痺れ)」
であり、日本で一般的な麻婆豆腐とは根本的に異なります。
日本の中華料理店では、日本の痺れの無い麻婆豆腐と区別化するため「本場四川風」の意味で「陳麻婆豆腐」という名称を使っている店が多くあります。
たとえば、横浜中華料理店では少なくとも、
- 京華樓
- 四川飯店
- 四川陳麻婆
の有名店舗が「陳麻婆豆腐」という名称を使用していました。
どれも四川風の痺れを全面に出した麻婆豆腐を提供しており、日本では慣習的に「四川風麻婆豆腐」の意味合いとして「陳麻婆豆腐」という名称を使っていると言えるでしょう。
陳麻婆豆腐店とは

陳麻婆豆腐店は、成都に現存する老舗の麻婆豆腐専門店です。
陳麻婆豆腐を作り出した陳興盛飯舗の、正当な後継としての位置づけがなされています。
ここでの「陳麻婆豆腐制作技艺」つまり陳麻婆豆腐の作り方は中国の非物質文化遺産にも登録されており、単なる飲食店ではなく、伝統料理を継承する存在です。
レトルトの陳麻婆豆腐も売り出しており、甜麺醤を入れず痺れが特徴の、本場の味に近い味付けになっています。
日本にも陳麻婆豆腐店の支店が存在しており、「陳麻婆豆腐発祥の店」として有名ですが、日本向けに少しアレンジされています。
陳麻婆豆腐と麻婆豆腐の違い

日本で陳麻婆豆腐と麻婆豆腐の違いについて述べられる時は、その味にが「四川風であるか」「日本風であるか」で区別されている場合が多くあります。
その判断基準は「麻(痺れ)」を全面に出した味付けかどうかです
痺れの強い四川風の味付けの場合は「陳麻婆豆腐」である場合が多く、日本風の味付けである場合は麻婆豆腐と書かれています。
ここではここに成都の陳麻婆豆腐や、本国で一般的なレシピを参照し、具体的にどんな味の違いがあるか、詳しく解説します。
陳麻婆豆腐(四川風)の味付け

日本で陳麻婆豆腐と称されているものは四川風を言い換えたものがほとんどです。
陳麻婆豆腐(四川風)の味付けは
- 花椒の痺れが主役
- ピーシェン豆板醤を使っている
ことが多くあります。
また、麻・辣・燙・酥・嫩・鮮・香・整(陳健民は活の代わりに捆を入れている)という8つの判断軸で評価できるようにしている麻婆豆腐が多くあるのも特徴の1つです。
あくまで陳麻婆豆腐(四川風)なのは、四川では甜麺醤あまり使うことが無いですが、日本向けに多少アレンジして、「陳麻婆豆腐(四川風)」にしているものがよく見られます。
ですがこれは本場には無い特徴で、陳健民独自のレシピです。
麻婆豆腐(日本風)の味付け

日本で一般的に食べられている麻婆豆腐は、以下の特徴があります。
- ラー油やごま油が香りの方向性を決める
- 甜麺醤を使用した甘めの味付け
- ショウガとネギの風味が強い
- 豚肉が中心
が使われ、辛さや痺れよりも食べやすさ、コクやうま味が重視されています。
餡掛けそぼろに近いと言えるでしょう。
中国人からすると全く別物に感じるそうです。
四川飯店の陳麻婆豆腐は偽物?

四川飯店の味付けは四川風であり、慣習として「陳麻婆豆腐」と日本で呼称される理由は理解できます。
しかし「(レシピや味付けも含めて)本物の陳麻婆豆腐」かどうかの結論を言うと、本場と違いかなり日本向けにアレンジが加えられており、加えて「陳麻婆豆腐店」と関係がないことから「本物の陳麻婆豆腐」とは言えません。
その理由を詳しく解説します。
陳麻婆豆腐本店や四川料理人の作る麻婆豆腐の特徴
まずは四川風でも無く、実際に陳麻婆豆腐本店や四川料理人の作る麻婆豆腐にはどのような共通点があるか解説します。
まず陳麻婆豆腐本店や四川料理人の陳麻婆豆腐は次のような特徴があります。
・牛肉を使っている(豚肉は使わない)
・ピーシェン豆板醤が味の方向を決めている(甜麺醤は使わない)
・葉ニンニクを使っている(ネギは使用しない)
・本店ではショウガをつかわない
四川では黄牛と言われる牛が多くおり、牛肉が料理によく使われています。
1955年に四川の黄牛を保護する、『關於防止濫宰耕牛和保護發展耕牛』が出た時は、代替品として豚肉を使用していました。
しかし当時は批判が多く、現在では牛肉を使用しています。
四川では熟成した豆板醤であるピーシェン豆板醤をつかい、甘さは牛肉を炒めたメイラード反応の甘さです。
甜麺醤は北京のもので、基本使用しません(場合によっては甘めの炸醬が後付けされている場合があり、また色付けに使われる醤油は砂糖を含んでいる場合があります)
また現在の四川ではよくある食材である、葉ニンニクを使用しています。
本店のレシピ紹介動画でも、ショウガは使わないと述べています。ただし、四川料理人によっては入れている人もいます。
四川飯店の麻婆豆腐の特徴
四川飯店の麻婆豆腐は実際の四川飯店における調理動画(四川飯店の魂 陳麻婆豆腐|YouTube味道 -MIDO-)で確認する限り
- 豚肉を使用
- 甜麺醤を使用
- 葉ニンニクとネギを半々で使っている
そのため四川風ではありますが、1960年代の麻婆豆腐のレシピを根底とし、さらに日本向けにアレンジされています。
豚肉の使用に関しては、まず日本では豚肉の方が安価であったこと、また『關於防止濫宰耕牛和保護發展耕牛』の1950年代に持ち込まれたため、当時四川でも「豚肉」を使うレシピが多かったこともあります。
1960年に中国の政府が「中国名菜譜」という中国各地の食をまとめたものの中には、葉ニンニクもしくはネギと書かれており、そのレシピを四川飯店は踏襲しています。

甜麺醤の使用に関しては日本独自で、日本人の舌に合わせ、また牛肉由来のコクやメイラード反応を代用するために使われたと考えられるでしょう。
四川飯店の麻婆豆腐は「『四川飯店流』麻婆豆腐」
実際の意味でも「陳麻婆豆腐店」と関係が無く、またレシピも陳麻婆豆腐店の系列から逸れていることから、四川飯店の麻婆豆腐は「『四川飯店流』麻婆豆腐」と言える存在と言えるでしょう。
本場四川の陳麻婆豆腐と、日本の中華麻婆豆腐の中間の存在で、「本物の陳麻婆豆腐」とは言えません。
そもそも、麻婆豆腐が日本に持ち込まれたのが1950年代であり、その当時に編纂された「中国名菜譜」でも「陳麻婆豆腐」とレシピ名がついています。
その当時の、まだ麻婆豆腐が確立していなかった流れの名残とも言えるでしょう。
陳麻婆豆腐の辛さレベルは?
そもそもの四川料理が辛い料理が多く、世界的に見ても上位の辛さだと言われています。
辛さと言っても山椒による痺れが強く、唐辛子自体の辛さは味を感じられないと言うほどではありません。
辛いものが得意なら、難なく食べられるレベルでしょう。
成都の陳麻婆豆腐店では、複数の辛さレベルが用意されています。
単に激辛というわけではなく、
痺れと香りが主役の、奥行きのある辛さが特徴です。
陳麻婆豆腐の本店はどこ?

陳麻婆豆腐の本店(旗艦店)は、
中国・四川省成都市にあります。
住所は中国四川省成都市青羊区青华路10号之附10-12です。
現在も営業を続けており、観光地でありながら地元客にも支持される老舗として知られています。
日本で食べられる陳麻婆豆腐の店舗

日本国内にも「陳麻婆豆腐」を名乗る店舗や、正式に提携している店舗が存在します。
それが「麻婆豆腐発祥の店」という日本のお店です。
ただし、四川の陳麻婆豆腐店とは豆腐の種類や、葉ニンニクの産地、そして日本向けにある程度アレンジされており、微妙に味が違います。
陳麻婆豆腐のレトルト
近年は、陳麻婆豆腐監修のレトルト商品も販売されています。
家庭で本場の方向性を体験する入り口としては有効で、四川風や日本風とはまた違う、甘くない麻婆豆腐を味わうことができました。
陳麻婆豆腐と麻婆豆腐の違いまとめ
陳麻婆豆腐と麻婆豆腐の違いは、「陳麻婆豆腐店の麻婆豆腐かどうか」もしくは日本の慣習として「花椒(しびれ)を主とした、素材や味における作り方の違い」にあることがわかったでしょうか。
陳麻婆豆腐と呼ばれているものは、陳健民の作った「花椒(しびれ)の味付けがありつつ、甘めの味付け」の麻婆豆腐の流れを汲むものが多いです。
現在日本では「本物の」味が求められています。
しかし麻婆豆腐は生まれてから100年程の間に何度もレシピが変わり、さまざまなレシピがあります。
四川飯店の麻婆豆腐は「陳麻婆豆腐」としては本物ではありません、「麻婆豆腐」としては歴史の流れを汲み、日本化された部分もある料理です。
これから先は、より厳格に「陳麻婆豆腐」と「四川飯店の麻婆豆腐」、そして「日本の麻婆豆腐」が分けられ、それぞれ独自に発展していくと考えられます。


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