
「本格四川の麻婆豆腐」と聞いて、どのような料理を思い浮かべるでしょうか。
強い辛さや花椒の痺れを想像する方も多いかもしれません。
しかし、それだけでは陳麻婆豆腐とは言えません。
本記事では、日本のシェフによってアレンジされた「それらしい麻婆豆腐」は紹介しません。
本場中国の文献に記録され、現地で取材され、現在も成都で作られている、文化としての本格陳麻婆豆腐店の麻婆豆腐のレシピを紹介します。
- 1960年に中国で編纂された料理文献
- キッコーマンによる中国食文化の取材映像
- 近年、陳麻婆豆腐店の旗艦店を実際に取材した動画資料
- 中国のエッセー
これらを照合していくと、麻婆豆腐は単なる「辛い豆腐料理」ではなく、独自の調理思想を持つ、完成された料理体系と歴史を持つことがわかりました。
- 「ドク(火毒)」といった調理法
- なぜ3度とろみを付けるのか
- 本場は甜麺醤を使わない理由
- 実際の資料の紹介
など本記事では、陳麻婆豆腐を「味」ではなく「構造」から理解することを目的に、文献と取材資料をもとにしながら、本格四川の陳麻婆豆腐を丁寧に解説していきます。
古い麻婆豆腐や、本当の麻婆豆腐レシピを知りたい人におすすめの記事です。
すぐにレシピを見たい人はこちらからどうぞ。
本格四川の陳麻婆豆腐とは?

まずは「本格四川の陳麻婆豆腐とは何か」簡単に解説します。
陳麻婆豆腐店の麻婆豆腐のこと
本格四川の陳麻婆豆腐とは、中国・成都にある『陳麻婆豆腐店』で作られてきた麻婆豆腐を指します。
陳麻婆豆腐は、時代によってレシピが違いますが、文献や取材記録により成立時期・材料・調理法が比較的明確に確認できる料理です。
本格的なレシピの特徴として
- 花椒を使った痺れのある調味
- ピーシェン豆板醤を使ったコクのある味
が挙げられます。
逆に日本によくあるレシピとの大きな違いとして
- 甜麺醤は使わない
- 豚肉は使わない
といった特徴があります。
日本式麻婆豆腐と陳麻婆豆腐の違いの解説は陳麻婆豆腐と麻婆豆腐の違いとは?四川飯店のは偽物って本当?で確認してみてください。
参考にした文献
今回まとめるにあたって、以下の文献を参考にしました。
1960年に中国により編纂された『中国名菜譜』
『中国名菜譜』は、中華人民共和国成立後、中国政府系機関の主導で編纂された料理文献です。
各地の代表的な料理を
- 原料
- 分量
- 調理手順
という形で整理し、「中国の名菜」を記録・標準化する目的で作られました。
1980年頃の中国を取材した、キッコーマン企画の『中国の食文化』
キッコーマンが企画し、旧岩波映画製作所が制作した中国のドキュメンタリーです。
5話からなり、北京、広州、江南、四川などの各地域の
- 現地の料理
- 調理工程
- 食文化
を映像として記録しています。
1985年あたりに取材され、中国に向かう飛行機内で放送されました。
近年の動画資料
- 大师的菜の動画『【大师的菜·麻婆豆腐】始于1862年的陈麻婆豆腐,第七代传人首次曝光百年制作工艺』
- 點新聞の取材動画『“麻辣烫整酥嫩鲜香” 成都非遗陈麻婆豆腐怎么制作?』
大师的菜は、中国で制作されている料理ドキュメンタリー系の映像シリーズです。
成都にある陳麻婆豆腐店の旗艦店を取材し、
- 店舗の歴史
- 現在の調理工程
- 伝承者として紹介されている料理人
を紹介しています。
點新聞は香港のメディアで、同店を取材し、2024年の調理工程を紹介しています。
その他中国の料理エッセー・回想録
他にも、中国の料理エッセーや回想から材料や過去のレシピを推測しています。
车辐著『川菜杂谈』
车辐さんは、四川出身の作家・随筆家です。
料理人ではありませんが、自身が若い頃に食べていた四川料理について後年エッセーとして記録を残しています。
- 1920年代前後の成都の食事情
- 当時食べられていた料理の内容
- 料理人や店の記憶
などが、体験談として記されています。
李劼人『风土什志』
李劼人さんは成都出身の作家です。
20世紀前半の四川を描いた歴史小説家でもあり、料理人でもあります。
『风土什志』では、车辐さん以前のレシピが書かれています。
今回のレシピは、2018年に取材された大师的菜の動画映像とレシピを元に、書かれていない細かい調味料の種類や調理方法を過去や最近の文献・動画から補足したものです。
調理工程は1960年の『中国名菜譜』ベース、キッコーマンの『中国の食文化』の映像とと车辐さんの『川菜杂谈』から補足をしています。
麻婆豆腐発祥の本格、陳麻婆豆腐店の「ガチ」レシピ

さっそく、麻婆豆腐発祥の陳麻婆豆腐店のレシピを紹介します。
今現在日本の中にある情報の中で、一番本格、かつ『正統派』です。
材料(2~3人前)
材料です。輸入できないものは日本のもので代用できるものを括弧で記しています。
指定されている調味料の産地や品種があれば記しています。
材料をクリックすると購入ページが開きます。できるだけ信用できるショップ、より現地に近いものを選びました。
ゆで豆腐
豆腐 500g(石膏豆腐、日本では買えないので木綿、ソフト木綿)
醤油 大匙1
塩 1.5 g
肉みそ
牛肉100 g
菜種油 150ml
豆板醤
郫県豆瓣 50g
漢源産花椒粉 1g
豆鼓10粒~15粒
二荊条唐辛子1 g
ニンニク微塵切り2~3かけ
スープ(全部は使わない)
牛テールスープ 200ml
豚の肉付き腿骨スープ 200ml
香味野菜
葉ニンニク 75g (なければネギ)
季節が違う場合は冷凍葉ニンニクも検討
とろみ
水120ml
エンドウ豆でん粉75g(なければ片栗粉で代用。水と1対1で溶かします。実際に使うのは20~30g程度です)
味・色付け
口蘑酱油25ml(マッシュルームエキスの入った中国濃口醤油、自作可)
味の素1.5g(無くても良い)
漢源産花椒粉 お好み
調理方法
実際の調理工程です。
①豆腐の下処理(嫩)
- 豆腐を洗い、2cm四方の角切りにする。
- 沸騰した湯に入れ、醤油と少量の塩(水に対して2%ほど)を加える。
- 豆腐の表面がうっすら色づいたら、引き上げて水気を切る。

②牛肉を炒める
- 鍋に油を入れて煙が出るまで加熱する。多めに油を入れることで、辣油を作り、また暖かさを保持します(烫)
- 牛引き肉を入れる。
- 牛肉がサクッとした状態(酥)になり、色が濃い茶色になるまで炒め、塩少々を入れる。この際焦げたり、中まで硬くなってしまうのは失敗です。
- 牛肉を一度取り出す
③材料を炒める
- 豆瓣酱、花椒(麻)、粉唐辛子(辣)、刻んだ豆豉を入れて豆瓣酱の香り(香)が立つまで炒め合わせる。この際、花椒と唐辛子が焦げないようにし、刻んだ豆豉は潰す。
- 香りが立ってきたら刻みニンニクを加え油に香りを移す
- 牛豚スープを加え(スープの量は豆腐の高さの50%になるよう留める)、続いて炒めておいた牛ひき肉を戻す。
- 牛肉を加える。最後にもかけるので、少し残す。
- 全体を混ぜ合わせる。
④豆腐を鍋に入れる

- 切っておいた豆腐を鍋に入れ醤油を入れる
- 3分~5分ほど煮る。豆腐の形を保つ(整)ため、勺の背を使って手前から奥に優しく動かす。
- 力を入れすぎず、炒める方向は一方向のみとする(ひっくり返さない)
- 色を調えるために、少量の醤油を加える。味が足りないときは味の素を加える。
この際、火毒(一文字ですが、四川の方言で書きこめない文字です。ドクと発音します)と言う調理法を使います。
スープの量は豆腐の高さの50%になるよう留め、ゆっくり煮込む調理法です。
大きな泡が立ち上がり、「プツプツ」という音がする状態になります。極弱火~中火で煮ます(激沸ではないです、豆腐が崩れます)。
豆腐の水分が抜け、調味料の味がしみこみます。
⑤水溶き片栗粉を加える
- 大匙2杯程度の水を加え、水溶き片栗粉を作る。
- 火を弱め、水に溶いたでん粉を三回に分けて少量ずつ加える。
- 2回目のとろみつけの後に、刻んだ葉ニンニクを加える(鲜)。
1回目は味を豆腐によりよくなじませる
2回目は餡に粘りを持たせるため
3回目は豆腐と餡を結合させ、水分の分離(吐水)を防ぐ
ここで重要なのは、とろみつけの最中に豆腐から水分が出るので観察しながら、水っぽくならないようにすることです。
⑥仕上げる
- 油が表面に浮き、照りが出るまで炒める(焦がして焼き付ける必要はありません)。
- 暖かいうちに器に盛り付ける(烫)。
- 仕上げに花椒面、残りの牛肉を振りかけて完成(酥)。

調理の際は麻・辣・酥・香・鲜・嫩・整・烫(痺れる辛さ・ピリ辛・サクサク感・香り・旨味・柔らかさ・形・熱さ)を重要視することが大切です。
より詳しい味の要素について知りたい人は、本格麻婆豆腐の8文字『麻辣烫嫩酥香鮮整』とは?7・6文字についても解説で確認してください。
なぜ本格的な陳麻婆豆腐では甜麺醤を使わないか
日本では甜麺醤を使いますが、陳麻婆豆腐では使いません。
甜麺醤の味付けは北京のものというイメージがあり、また入れてしまうと甘みが強く出過ぎてしまいます。
多くの四川料理人は甜麺醤を使用していませんでした。
また牛肉を使うため、コクがでることも甜麺醤を使用しない理由の一つでしょう。
入れると本格的な味がしなくなります。
ただし、陳麻婆豆腐店の8代目、張盛躍さんが監修をしたこともある、日本の陳麻婆豆腐店のれん分け店では取材したところ「甜麺醤を使っている(みなとみらい店)」との回答でした。
隠し味として成都でも使っている可能性は否定できません。
参考にした本場四川の文献内容
上記はさまざまな文献から現在
ここでは、『本場』のレシピを再現するために参考にした文献と、その内容を紹介します。
1960年編纂の『中国名菜譜』薛祥順さんレシピ

『中国名菜譜』は、中華人民共和国成立後、中国政府系機関の主導で編纂された料理文献です。
地名ごとに別れており、四川編は1960年に編纂、麻婆豆腐も「陳麻婆豆腐」としてこの名菜集に収録されています。
これは「最初に公式で文章化された麻婆豆腐のレシピ」としても有名です。
このレシピが作られた1960年は、薛祥順さんが料理長をしており、「薛祥順バージョンの麻婆豆腐レシピ」とも言えます。
薛祥順さんとは

薛祥順(Xuē Xiángshùn、シェー・シャンシュン)さん(1903–1974年)は、成都の陳興盛飯舗(現・陳麻婆豆腐店)で1920年代から働いていた人です。
それまで陳劉氏の家系つながりで料理長が選ばれていましたが、初めて外から招き入れられました。
現在の麻婆豆腐の形を築き上げた人として、また後述する车辐さんのエッセーにも名前が書かれている重要な人物でもあります。
実際の『中国名菜譜』薛祥順さんレシピ
(一)原 料
石膏豆腐 三两
辣椒面 一钱
植物油 一两
口麿酱油 六分
味之素 一分
水团粉 六分牛肉 一两半
花椒面 三分
四川豆豉(剁细)二钱半
精盐 二分
浓汤② 二两
葱段(或青蒜段)三钱1.豆腐用竹制刀(不用鉄質刀,以免豆腐沾有铁味)
切成六分見方小塊,放在碗内注入开水,以除去石膏涩味,一
分鐘后将水泼干。牛肉(也可用猪肉代替),剔去筋后,剁成
肉末。2.将植物油放在锅内,用微火烧至油出烟时,放肉末
入鍋,用手勺来回翻动以免巴锅。俟肉成深青微带黑色时,
放入精盐,用勺搅二、三下,使盐味均匀;再放豆豉,並用
手勺把豆豉按碎,使豆豉味完全浸入肉内,而不見豆豉粒;
随即放辣椒面,仍用手勺来回鏟动,聞有辣味时(注意掌握
火候,不要使辣椒面出焦味),就放入高汤;然后将豆腐放
入锅三分鐘(冬天要煮四至五分鐘),再加葱段或蒜段。 此时
豆腐已稍浸但色淡,味不甚濃,需放口蘑酱油提色和味之素
提味,並把水团粉放入,用手勺微微将豆腐揆动几下使团粉
均匀后即舀起盛入碗内,撒上花椒面便成。① 火毒:音毒系四川方言。用这种方法作菜,火要小,汤要少,慢慢地煮,
汤面不断地冒大気泡、並有“种嘟”的声音,直到豆腐(其他食物也一样)本身
水分排出,而调料味道渗透入时就?好了。② 浓汤:用猪腿和牛尾熬成。
『中華名菜譜 第七編 四川』
石膏豆腐 三両
唐辛子粉 一銭
植物油 一両
口麿醤油 六分
味の素 一分
水溶きでん粉 六分牛肉 一両半
花椒粉 三分
四川豆豉(細かく刻む) 二銭半
精塩 二分
濃いスープ(②) 二両
ねぎの微塵切り(または葉ニンニク) 三銭1.豆腐は竹製の包丁(鉄製の包丁は豆腐に鉄の味が移るため使用しない)で
6cm角の小口に切り、ボウルに入れて熱湯を注ぎ、石膏の渋みを除去する。
1分後、湯を捨てる。牛肉(豚肉でも可)は筋を取り除き、
みじん切りにする。2.鍋に植物油を入れ、弱火で煙が出るまで熱する。ひき肉を入れ、へらで鍋底に付かないようかき混ぜる。肉が濃い青みがかった黒色になったら塩を加え、へらで2~3回混ぜて塩味を均一にする。豆板醤を加え、
手杓子で潰し、豆豉の風味を肉に完全に染み込ませる(豆豉の粒が見えなくなるまで)。
すぐに唐辛子粉を加え、手杓子でかき混ぜながら香りを立たせる(焦げないよう火加減に注意)。
その後、出汁を加える。豆腐を鍋に入れ3分間煮る(冬場は4~5分)。
最後に葱または葉ニンニクを刻んだものを加える。この時点で豆腐は少し味が染み込んでいるが色は薄く、味が薄いので、色味を上げるため口蘑醤油を、味を引き立てるため味の素を加える。水溶き片栗粉を入れ、お玉で豆腐を軽く数回かき混ぜて片栗粉を均一にしたら、すくって器に盛り、花椒粉をふりかけて完成。① 火毒(火毒は四川方言で「毒」と発音)。この調理法では弱火で少量の水を使い、ゆっくりと煮る。
湯面に大きな泡が絶えず立ち上り、「プツプツ」という音がする状態を保ち、豆腐(他の食材も同様)の水分が抜け、調味料の味が染み込んだら完成。② 濃湯(豚足と牛尾を長時間煮込んで作るスープ)。
レシピの特徴
- 調理法として「火毒(火偏に毒)」を使っている
- 牛骨と豚骨スープがベース
- 口蘑酱油
を使っていることが挙げられます。これらは現代の陳麻婆豆腐店のレシピでも詳しく紹介されていないことでした。
火毒とは?
「火毒(火偏に毒、dú、ドゥ)」は、麻婆豆腐の文脈では“汁(スープ)を多くせず、少量の湯・汁で豆腐をゆっくり煮含めて味を入れる火入れ”として説明されます。日本語側の整理になりますが、少ないスープで素材の水分を引き出し味を染み込ませる調理法としてまとめられています。
牛骨と豚骨スープがベース
スープ(高汤)の取り方として、牛骨・豚骨をベースにし、生姜・大葱を入れて白湯寄りに煮出す配方は中国語圏のレシピ記述で広く確認できます。
たとえば「猪棒子骨・牛棒子骨+生姜・大葱」で乳白まで煮出す作り方が提示されています。
口蘑酱油

口蘑(Tricholoma mongplicum)とは、内蒙古自治区や河北省西北部(張家口一帯)に自生している、マッシュルームに似た、香り豊かなキノコのことを指します。
この口蘑を使った醤油を口蘑醤油と呼びます。
現代ではキノコ全般のことを指すこともあり、「キノコ風味の高級醤油」だったと考えられるでしょう。
2018年の『大师的菜』の動画内で、説明はないものの「中国濃口醤油」と「キノコ」の組み合わせが見られました。
現在でも色付け、隠し味的要素で使われていると推測します。
中国の醤油自体について詳しく知りたい人は、
本物の中国醤油は美味しい!中国醤油のおすすめと日本醤油との違い、草菇老抽・口蘑醤油についても解説
を参考にしてください。
1985年に取材したキッコーマン『中国の食文化』のレシピ

キッコーマン国際食文化研究センター(現・キッコーマン国際食文化研究所)が、1985年に実施した中国各地の食文化調査の一環として制作された記録資料です。
当時観光客向けにビザを開放するようになり、日本から中国への観光客が増えました。
その際の機内放送で流されていたと人民網の2017年9月8日の記事に書かれています。
目的は、
- 中国各地の伝統料理の実地取材
- 調理工程・素材・文化背景の記録
- 日本における中国料理理解の深化
でした。
1980年代はまだ中国本土の料理情報が日本にほとんど入ってこない時代であり、現地での実地取材に基づく一次的な映像・写真記録という点に価値があります。
薛祥順さんが料理長を辞めて無くなった後の記録で、どの料理人が作っているかはわかりません。
1980年代のレシピ

材料は固めの豆腐、牛肉、それにネギ。
香辛料と調味料は山椒、唐辛子をはじめ、醤油、塩、糖地、唐辛子油など、大変多彩です。 たっぷりの油で、まず牛肉を炒め、ついで山椒、唐辛子を油によくなじませてから豆腐を入れます。
(スープ状の鍋が映る)
ここでネギを加えてさらに煮込みます。
よく煮えてきたら水溶き片栗粉でとろみ付け。
すりつぶしたトーチと塩を足します。
最後に香りと辛味を加えるため唐辛子油を入れて出来上がり。
唐辛子の赤と豆腐の白 見るからに食欲をそそる色合いです
そして舌が痺れるほど山椒を効かしたのが、この店の味の特徴。
この店はセルフサービスですが、窓口に粉山書が置いてあり、客の好みによってさらにふりかけます。『中国の食文化 四川』キッコーマン
レシピ内では、花椒や葉ニンニクといった日本人になじみの低い食材は「山椒」や「ネギ」と言い換えられていますが、映像から花椒と葉ニンニクだとわかります。
また説明で省略されているのか、実際に使わなかったのか、まだ豆板醤は入れられていません。
1968年出版の陳県民さんの『中国料理技術入門』は版を重ねていますが、豆板醤の記載がありました。
1982『中国名菜集锦』ではレシピに無いものの、写真には映っていることからこの時期が過渡期がったのかもしれません。
1980年代のレシピレシピの特徴
- 唐辛子を入れる時に花椒を入れる
- 豆鼓を入れるタイミングはとろみを付けた後
- 最後にラー油をかける
など、中華名菜譜とも、この後紹介する2018年と2024年のレシピとも違います。
確かに花椒の痺れ成分であるサンショオールは脂溶性で、100度あたりで抽出されやすくなります。
痺れを強くしたい場合は理にかなっている作り方です。
ですが豆鼓に関しては中華名菜譜も、2018年と2024年でも初めの方に油で炒めています。
豆鼓の香りを出すためで、現在のレシピでも行われている方法です。
しかし動画内では塩と同時に、最後に入れられています。
この時は既に薛祥順さんは亡くなっています。
また大量に作っていることが確認でき、そのためにオペレーションを変え、作り方にブレがあったのでしょう。
ただ、中華名菜譜や2018年と2024年のレシピでは花椒は最後にかけるだけです。
しかし実際に作ると痺れが無くなるため、最初に書いたレシピでは花椒のタイミングだけは採用しています。
2018年の『大师的菜』の取材動画 7代目汪林才さんレシピ

2018年の『大师的菜』は、YouTubeの中国料理を取材するチャンネルで、中国各地の伝統料理とその料理人を紹介する動画になっています。
「【大师的菜·麻婆豆腐】始于1862年的陈麻婆豆腐,第七代传人首次曝光百年制作工艺」では、7代目汪林才さんのレシピと、動画によって材料が紹介されています。
第七代として調理を担当しているのは汪林才さんです。
7代汪林才さんのレシピ

【大师的菜谱·麻婆豆腐】
✔食材准备
豆腐·一斤/ 牛肉绍子·二两/ 豆瓣酱·一两/
海椒面·二分/ 豆豉·十余粒/ 酱油·五钱/
蒜泥·适量/ 盐·三分/ 豌豆淀粉·一两五钱/
花椒面·二分/ 蒜苗·一两五钱/ 高汤·八两✔开始制作
第一步·豆腐焯水·
将豆腐洗净后切成四方丁,倒入烧水的锅中,煮使豆腐受第一次热,再加入酱油、少量食盐,豆腐变色后捞出豆腐备用。
第二步·炒牛肉绍子·
锅里倒油,锅热后倒入牛肉绍子,炒至牛肉变酥和变色后,捞出牛肉末备用。
第三步·炒制底料·
在锅里加入豆瓣酱、海椒面、豆豉炒匀,再加入适量蒜泥炒至发香,再在锅里加入适量高汤和炒好的牛肉绍子,炒匀。(注意:保持高汤只没过豆腐的百分之50)
第四步·豆腐入锅·
在锅里加入切好的豆腐,保持豆腐的形状炒制的时候用勺的背面,不能太大力,在炒的过程中不能回勺,保持一个方向。
第五步·加入酱油、豌豆淀粉·
在锅里加入少许酱油提色。豌豆淀粉加入两匙清水勾兑清芡,调成小火,水芡分三次少许加入锅中,小心翻炒。
第六步·收汁出锅·
在起锅前加入切好的蒜苗,炒至亮油收汁后出锅装盘,再撒上花椒面即成。✔Q: 为什么麻婆豆腐要勾三道芡?
第一道芡:使味道更好的融入到豆腐里。
第二道芡:起更好的拉力作用。
第三道芡:使豆腐彻底粘合,不再吐水出来。陈麻婆豆腐色泽红亮,豆腐形整不烂,一碗里面包含了乾坤:麻、辣、酥、香、鲜、嫩、整、烫 八种滋味。
麻辣豆腐,在川西坝子可以有很多改良和口感调和,但是“麻婆豆腐”是陈麻婆豆腐店专有的做法。虽然不一定是最好吃的,但是它才是唯一的正宗的麻婆豆腐
。YouTube【大师的菜·麻婆豆腐】始于1862年的陈麻婆豆腐,第七代传人首次曝光百年制作工艺
【名人のレシピ・麻婆豆腐】
✔材料準備
豆腐・500g/牛肉ミンチ・100g/豆板醤・50g/
粉唐辛子・2g/黒豆味噌・10粒以上/醤油・25ml/
すりおろしニンニク・適量/塩・3g/片栗粉・150g/
花椒粉・2分/ ニンニクの芽・1斤5銭/ ダシ汁・8斤✔調理開始
第一歩・豆腐の下茹で・
豆腐を洗い、角切りにする。沸騰した湯に投入し、豆腐に一度熱を通す。醤油と少量の塩を加え、豆腐の色が変わったら取り出して置く。
第二歩・牛肉のひき肉炒め・
鍋に油をひき、熱したら牛肉のひき肉を入れ、牛肉がほぐれて色が変わるまで炒める。牛肉を取り出して取っておく。
第三步・ベースの調味料を炒める・
鍋に豆板醤、粉唐辛子、黒豆味噌を加えて炒め合わせる。適量のニンニクみじん切りを加え、香りが立つまで炒める。鍋に適量の高湯と炒めた牛肉のひき肉を加え、よく混ぜ合わせる。(注:出汁は豆腐の50%を覆う程度に保つ)
第四ステップ・豆腐を加える・
鍋に切った豆腐を加え、形を崩さないようスプーンの背で優しく炒める。強く混ぜず、一方向のみに動かす。
第五ステップ・醤油・片栗粉を加える・
鍋に少量の醤油を加えて色を付ける。片栗粉を水大さじ2で溶き、弱火にして水溶き片栗粉を3回に分けて少量ずつ加え、丁寧に炒める。
第六ステップ・煮詰めて盛り付け・
仕上げに刻んだニラを加え、油が光るまで炒めて汁気を飛ばしたら皿に盛り、山椒粉をふりかける。✔Q: なぜ麻婆豆腐は三度のとろみ付けが必要?
一度目のとろみ:味が豆腐にしっかり染み込むため。
二度目のとろみ:より良い粘り気とまとまりを出すため。
三度目のとろみ:豆腐を完全に固め、水分が出ないようにするため。
7代汪林才さんのレシピの特徴
7代目汪林才さんレシピの特徴は、「3道芡(サンドゥーチェン)」という概念があることです。
3道芡(サンドゥーチェン)は3度に分けてとろみつけをし、豆腐から水分が出てこないようにするやり方です。
また、
・豆腐に醤油を入れる
・スープを入れた後に醤油を入れる
・ネギはとろみつけが終わった後に入れる
という工程になっています。
ただし、家庭でも再現できるようにステンレスフライパンで調理されており、ある程度動画用に簡素化されていることに注意しましょう。

動画に出てくる調味料は実際の文章に書かれたものより多くなっています。

確実なのが

それ以外にも、
も確認できます。
顆粒だしと味の素は、大々的に言えないものなので画像に留めたと考えられます。
キノコについては、乾燥口蘑だと考えられます。
口蘑醤油を煮出して作っているのでしょう。
中国名菜譜のレシピがベースとなっているレシピです。
2024年の『點新聞』の取材動画 8代目張盛躍さんレシピ

點新聞(Dot Dot News)は香港のメディアです。
「100種味道|「麻辣燙整酥嫩鮮香」 麻婆豆腐名揚四海」では、8代目張盛躍がレシピを紹介しています。
張盛躍さんは麻婆豆腐の作り方の規格化をした人です。
それまで料理人によって味が違っていた麻婆豆腐のレシピを一律化しました。
陳麻婆豆腐店ののれん分け店の監修のため、6年間日本に居たことがあります。

動画内で説明されている材料は
説明されていないが動画の映像で確認できるのが、
です。
また、2020年に取材された、AちゃんのChinaNow「麻婆豆腐を食べるならやっぱり四川省で!」でも同じ張盛躍さんが調理しており、スープは「牛骨スープ」と説明しています。
- 牛骨スープ
中国名菜譜では豚骨と混ざっていたので、説明時に省略されているか、重要視していないことが考えられます。
8代目張盛躍さんレシピの特徴
基本的なレシピの流れは汪林才さんのレシピと同じです。
ただ、動画には出てくるものの張盛躍さんが醤油を使うシーンは無く、豆腐を茹でる時にも入れていませんでした。
家庭用に簡素化されているのでしょう。
他にも特徴は、
- ネギは2回目のとろみつけの後
- 最後に牛ひき肉をかける
ものがありました。これは工程の進化と、牛肉のカリカリ感を強調するためです。
他にも王剛さんという四川料理レシピを紹介している陳麻婆豆腐店レビュー動画では
泡辣椒(酢漬けの唐辛子)を入れている可能性にも言及されていました。
この工程や材料以外にも、陳麻婆豆腐店独自の調味料や工程はあると考えられます。
その他エッセーの本格的な陳麻婆豆腐のレシピ
中国の食通エッセイストである车辐さん(1914-2013)と李劼人(1891-1962)さんも、陳麻婆豆腐について書いています。
车辐さんの薛师傅レシピ

车辐(しゃ・ふく/Che Fu)さんは、主に成都の庶民文化・飲食文化・市井生活を描いた人物として知られています。
その中でも2012年、90歳の時に書いた『川菜杂谈』四川の雑談という意味のエッセーでは、詳しくそのレシピが書かれています。
车辐さんが中学生の頃の話なので、およそ1920年代~30年代の麻婆豆腐のレシピと言えるでしょう。
薛祥順さんが働き始めた初期のレシピで、実際に薛祥順さんが調理している所を車輻さんは見ています。
薛师傅豆腐的先后程序我看的时间较久,至今尚能清楚记忆:他将清油倒入锅内煎熟(不是熟透),然后下牛肉,待到干烂酥时,下豆豉。当初成都口同嗜豆豉最好,但他没有用,陈麻婆是私人饭馆,没有那么讲究;下的辣椒面,也是买的粗放制作那一种,连辣椒面把子一齐舂在里面,——只放辣椒面,不放豆瓣,这是他用料的特点。
『川菜杂谈』新知三联书店出版
薛師匠の豆腐料理の手順は長い間見てきたので、今でも鮮明に覚えている。まず鍋にサラダ油を注ぎ、軽く炒める(完全に火を通さない)。次に牛肉を入れ、しんなり柔らかくなるまで炒めたら豆豉を加える。当時は成都の人々が豆豉を好んだが、彼は使わなかった。陳麻婆は個人経営の食堂で、そこまでこだわらなかったのだ。加える唐辛子粉も、粗く挽いた市販品で、唐辛子の茎ごと一緒に搗き潰したものを用いる。——豆板醤を使わず唐辛子粉のみを使うのが、彼の材料選びの特徴であった。
豆鼓を使わなかった、というのは中国では「成都の人が好んだ豆鼓は使わなかった」という解釈がなされています。
车辐さんの薛师傅レシピの特徴として、
- 豆鼓と肉を一緒に炒めていること(これは中国名菜譜と同じです)
- 唐辛子しか使わないこと
- とろみつけの工程が無いこと
が挙げられます。
特にとろみ付けの工程については、後述する李劼人さんも書いていません。
李劼人さんの1900年前後のレシピ

李劼人(り・きつじん/Li Jieren)とは成都出身の作家です。
20世紀前半の四川の風俗・市井生活を細密に描いた人物で、歴史小説家としても知られます。
そのなかでも『风土什志』の漫谈中国人之衣食住行では、1900年前後の陳麻婆豆腐店の様子が書かれています。
1900年前後は薛师傅さんは1920年ごろから陳興盛飯舗(現・陳麻婆豆腐店)で働き始めたため、それ以前のレシピになります。
将就油篓内的菜油在锅里大大的煎熟一勺,而后一大把辣椒末放在滚油里,接着便是猪肉片,豆腐块,自然还有常备的葱啦、蒜苗啦,随手放了一些,一烩,一炒,加盐加水,稍稍一煮,于是辣子红油盖着了菜面,几大土碗盛到桌上,临吃时再放一把花椒末。
油篓の中の菜種油を鍋でたっぷり熱し、スプーン一杯分をしっかり炒める。次に唐辛子のみじん切りをたっぷり投入し、続いて豚肉のスライス、豆腐の角切り、そして定番のネギやニラも加える。適当に放り込み、ひと煮立ち、ひと炒め、塩と水を加えて軽く煮込むと、唐辛子の赤い油が野菜の表面を覆う。大きな土碗を数個テーブルに並べ、食べる直前に花椒の粉をひと振り加える。
『风土什志』漫谈中国人之衣食住行
このレシピの特徴は、
- 豚肉のスライスを使っている
- 花椒は最後にかける
の2つが挙げられます。
そもそも初期の頃は客に牛肉や豚肉、油などの材料を持って来させていました。
なのでその時々によって変えていたと考えられます。
これらの原初のレシピを見ると、麻婆豆腐は「とろみをつけた豆腐料理」というより、「油を使った豆腐料理」という性質が見えてきます。
豆腐のスープではなく、アヒージョに近い料理です。
コクが足りない場合は?
上記のレシピや、日本式の麻婆豆腐でも、コクが足りないと感じる場合があるでしょう。
コクとは日本独特の概念で
- うま味(グルタミン酸・イノシン酸・ペプチド、アミノ酸、発酵生成物)
- 脂質
- 苦み(メイラード反応生成物・焙煎由来の複雑香気)
- 甘み(メイラード反応生成物・糖分)
- 香り(複雑な香り)
を主体として、香りやえぐみなど、感じる味の層の厚みが「コク」として表現されます。
コクが足りないと感じる場合は、味や香りの「数」が足りない場合が多いです。
解決策をいくつか紹介します。
郫県豆瓣、豆鼓、醤油、味の素を加える
発酵のうま味とアミノ酸が増え、味に厚みと持続性が出ます。
最も安定してコクを強化できる方法です。
特に熟成発酵した郫県豆瓣を入れるだけで、味に深みが出ます。
油や塩の量を増やす
味の強さと口内への残り方が増します。
濃くはなりますが、単調になりやすい面もあります。
ひき肉をよく炒める、牛肉にする
強く炒めることで香ばしさが生まれ、牛肉ならうま味も強くなります。素材由来のコクが増します。
砂糖を加える
甘味が辛味と塩味を包み、味が丸くなります。
また旨味が引き立ち、少量なら奥行きが出ます。
甜麺醤を加える(日本式)
これをすると「本格麻婆豆腐」からは遠ざかりますが、苦みや香り、旨味と甘みを簡単に追加できる方法です。
甘味と発酵の風味、粘度が加わり、一気に濃厚になります。
やや日本中華寄りの味になります。
片栗粉不要!肉と豆腐と唐辛子と花椒粉で作る超簡単・『原初の麻婆豆腐』の作り方

ここでは、車福さんと李劼人さんが記した、1900年代初期に作られていたもっとも簡単な麻婆豆腐を、日本向けに再構成しました。
材料

- 菜種油(サラダオイル) 50ml以上
- 唐辛子粉 大匙2~3
- 豆鼓(なければ醤油)大匙1
- 塩 大匙1
- 牛or豚ひき肉orスライスでも何でもいい 100g
- 生姜 適量
- 石膏豆腐(木綿豆腐)150~200g(2/1丁)
- 花椒(山椒)適量
- ネギ,できれば葉ニンニク 3分の1
作り方

- 油を熱し、唐辛子を加えます。香りが立ち油が赤くなるようにします
- 豆鼓も加えて熱を入れます
- 肉を炒めます。葉ニンニクがなければここでニンニクも加える
- 角切りした豆腐を入れます
- ネギ、葉ニンニクを加えます。
- スープor水少量と塩を加え、3分~5分ほど煮ます。(豆鼓が無い場合はここで醤油)
- 最後炒めて、水分を飛ばします
- 最後に花椒粉を振り完成
ありあわせのもので作れるためおすすめです。
本格的な陳麻婆豆腐レシピのまとめ
陳麻婆豆腐の本格原典レシピを紹介しました。
歴史的に考えて、いま日本で一番「正しい」レシピです。
- 文献
- 随筆
- 現地証言
- 世代別比較
を通して見えてくる一つの基準があります。
それは、甘味に頼らない、動物性の旨味と油、豆腐と麻辣で構築された麻婆豆腐です。
現在、日本人甜麺醤主体や料理人のオリジナルの麻婆豆腐が「本格四川」として紹介されている状況です。
ですがほとんどが日本の四川飯店レシピに準拠しています。
必ずしもこれが一番美味しいレシピとは限りませんが、
もう一度原点を振り返ることで、より良いレシピの発展ができるのではないでしょうか。
今自分たちが食べている麻婆豆腐は「どこから来た料理か」を知ることは、国同士の相互理解にも繋がるのではないでしょうか。
ぜひ今回紹介したレシピで作ってみてください。



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